2012年3月。
あゆちゃん18歳。
世のほとんどの18歳は進学するか働くかですが、あゆちゃんのような「重症心身障害者(重心)」の進路はというと「生活介護」施設に通う人がほとんどです。
いわゆるデイケア(通所)施設。
通所施設、とひとくちに言っても「医療的ケア(医ケア)」あり重心となし重心とでは、通い方が違います。
どんなふうに違うかというと、例えばある通所施設の医ケアなし重心の定員は40名、
月曜から金曜まで通えます。
でも医ケアありの重心となると、なんと定員5名。
アッという間に埋まる枠です。
埋まっても次々学校を卒業してくる医ケア重心。
どこに行けばいいんでしょう?
苦肉の策が「登録10人」。
これは、日々の5人の定員枠を10人の登録者でシェアする、というものです。
つまりAさんは月、水、金曜日、Bさんは火、木曜日といったように、通所できる5人の枠を10人がかわりばんこに使うのです。
週2日。
休みじゃなくて通える日が。
そして10人の枠がいっぱいになったら登録すらできない…
どこにも行くところがない…
一人では出かけることができない重心です。
かといって家にいたところで一人ではマンガ一冊読むこともできない重心。
ただ天井を見て過ごすしかないとしたら、そんな18歳、むごすぎます。
「自立」のためにしなくてはならないことは山ほどあれど、まずは日中活動―昼間の生きる場所―をなんとかすることから取り掛からなくては。
でも何とかするったって、いったいどうしたら?
おいおい、ちょっと待って、まわりが決めることじゃありません。
あゆちゃん、あなたはどうしたい?
星よりひそかで雨より優しい重心の人々。
言葉でどうしたいか、言ってはくれません。
けれど、目で、全身で、語ってくれます。
だからいろいろ一緒にやってみて、その時あゆちゃんはどんな顔したか、どんな体だったか、言葉にならぬあゆちゃんの声を見逃さず、一緒に考える。
考えて、また一緒にやってみて、あゆちゃんに聞いて、また一緒に考える。
そんなふうにあゆちゃんの「自己決定」を介助していくことにします。
さあ、あゆちゃん、目的地の決まらない、「自立」への冒険のはじまりだよ。
♪重症心身障害者って?→知的にも身体的にも重度の障害を併せ持った人。略して重心とも呼ばれます。
♪医療的ケアって?→あゆちゃんのように鼻から胃へ管を通して水分や栄養剤を流し込む「経管栄養」や、たんの「吸引」など、在宅で家族などが日常的に行う医療的介助のこと。略して医ケアとも呼ばれます。